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賃料に関する判例集

賃料に関する判例集

借地借家法に規定する賃料増減額請求権の要件は、

  1. 現行の賃料が客観的にみて「不相当」となったこと
  2. 前回の改定から相当の期間が経過していること
  3. 不増額の特約がないこと

ですが、このうち【2】についての話題です。

従前の賃料が不相当となっているにもかかわらず、従前の賃料が定められた時から一定の期間を経過していないことを理由として、賃料の増額請求を否定することは、借家法7条の趣旨に反する。

S46. 8.20 X先代A、Yに対し、本件建物を倉庫・営業所として使用する目的で賃貸(当初賃料月額23万2,050円)
S61. 10.1 賃料月額40万9,995円に改定
S63. 4.12 A、Yに対し、同年5月20日以降の賃料を月額60万円に増額要求
S63. 4.25 A死亡、X相続・賃貸人の地位を継承
- X、Yに対し、増額賃料確認請求の訴え提起

Xの先代Aは、昭和46年8月20日その所有する本件建物を倉庫及び自動車運送の営業所として使用する目的、賃料月額23万2,050円でYに賃貸した本件建物の賃料はその後度々改定され、昭和61年10月1日以降は月額40万9,995円であった。
その後、土地、建物価格の上昇その他経済事情の変動により従前賃料が不相当となったとして、AはYに対し、昭和63年4月12日到達の書面で同年5月20日以降の賃料を月額60万円に増額する旨通知した。
昭和63年4月25日Aが死亡し、Xが相続、本件賃貸人の地位を承継した。そこでXはYに対し、昭和63年5月20日以降の賃料は月額60万円であることの確認を求めて訴えを提起した。

一審判決(大阪地判平2・5・9金判913・8)は、本件建物の賃貸借は昭和46年以来長期間にわたり継続しており、今後更に長期間継続することを予定して従前賃料の改定が行われてきたものと推認される。
したがって、従前賃料の額はこれを不増額の特約あるものとはいえないとしても、ある程度の期間増額されないことが当然の前提となっていたものとみるべきであり、また、通常の建物賃貸借の場合、2年間は賃料据置期間と解されている(公知の事実である)ことからみても、1年半程度の期間しか経過していないのに賃料の増額を請求することは、その間よほどの事情のない限り、従前の賃料が不相当になったものとはいえないと解されるとした上、本件においては本件建物及びその敷地の公租公課及び消費者物価指数の変動はそれほど大きくなく、従前賃料が不相当となったものとはいえず、また、従前賃料額と鑑定による適正賃料額との間にある程度の乖離があるが、適正賃料額が従前賃料額を上回るというだけで、賃料増額を許容すべき事情の変化とみることはできないとして、Xの請求を棄却した。

これに対し、Xが控訴し、賃料増額請求をするには、従前の賃料決定後相当の期間を経過していることは必ずしも重要でなく、格別の賃貸借について個別に判断されるべきで、本件賃料借においては、昭和52年1月から同54年2月までの間、Yの都合により1年未満で6回も減額されており、同56年4月にやっと同49年の水準に回復したものの、その後同61年9月までの5年5箇月間賃料は増額されず、同61年10月以降やっと調停により従前賃料である月額40万9,995円に改定されたものである。
このような経過に照らし、本件建物の賃料は短期的に是正されて然るべきである。
仮に、第一審の見解によるとしても、Xは本件増額賃料確認請求訴訟を追行し、賃料を月額60万円に増額する旨の意思表示を維持しているのであるから、昭和63年10月1日(従前賃料決定後2年経過した日)以降での賃料増額は認められるべきである旨主張した。

控訴審(大阪高判平2・11・15金判913・6)は、賃料増額請求をなすための要件は、「前回の家賃決定のとき以来経済事情が変更した結果、賃料が不相当になったこと」であり、「事情の変更」というためには前回賃料が決定されたときと今回増額請求がなされたときとの間に相当の期間が経過していることが当然に必要と解されるところ、本件において、従前の賃料改定の経緯、値上げ幅、諸物価及び土地価格の上昇の状況などから、前回改定時から遅くとも2年の経過をもって事情変更が生じたと認定するのが相当であるとした。
そして、Xの今回の賃料増額の意思表示がなされた昭和63年5月20日時点においては、賃料増額の要件はいまだ備わっていなかったが、右増額の意思表示は、本件訴訟を追行することにより維持しているから、要件が備わった時点(従前賃料決定後2年を経過した同63年10月1日)でその効力を生ずるとして、裁判所が同時点における適正賃料額と認めた月額53万4,700円の限度でXの請求を認容した。

これに対し、Yが上告し、Xの賃料増額請求は、本件建物の賃料が現行の賃料に改められた時から5年を経過するまで認められるべきでなく、その時から2年を経過した時点で賃料増額請求の効力を認めた原審の判断は違法であるなどと主張した。

本判決は、「建物の賃貸人が借家法7条1項の規定に基づいてした賃料の増額請求が認められるには、建物の賃料が土地及び建物に対する公租公課その他の負担の増減、土地又は建物の価格の高低、比隣の建物の賃料に比較して不相当となれば足りるものであって、現行の賃料が定められた時から一定の期間を経過しているか否かは、賃料が不相当となったか否かを判断する一つの事情にすぎない。
したがって、現行の賃料が定められた時から一定の期間の経過していないことを理由として、その間に賃料が不相当となっているにもかかわらず、賃料の増額請求を否定することは、同条の趣旨に反するものといわなければならない。」と判示し、Xの上告を棄却した。

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